近藤と妙



「妙さ――ん!今日はクリスマスイブですよー!イブー!俺と一緒にパーティーやりましょー!!」

朝っぱらから五月蠅い人…もぅ、仕方無いな。こんな日ぐらい、もっとスマートに誘ってくれれば良いのに…
でも…そうよね、こんな日だから、私も少しは素直になっちゃおうかしら…ケーキだって用意したんだし、ミツバさんにも言われちゃったし…仕方ないな…
手を振りながら駆け寄ってきた近藤君が、私の前に立って、後ろ歩きしながらニコニコ笑う。

…今は私はこの人の笑顔に弱いのよ…もぅ…

「料理も用意してありますし、プレゼントもばっちりです!ケーキも美味しいの用意しましたよ!」

……………ケーキ………………?

私の笑顔が引き攣るのが分かった。
何よ!私のケーキが食べたいって言ってたじゃない!

「…折角のクリスマスイブに、何で私がアナタとパーティーしなくちゃいけないのかしら?」

引き攣った笑顔のまま私が言うと、近藤君が赤くなって、ポリポリと頬をかく。

「いや、イブと言えば、恋人達のお祭りじゃないですか!俺としては妙さんと過ごしたいなぁー、って…」

「恋人達のお祭りなんでしょ?じゃぁ私達には関係無いじゃない。」

私がキレイな笑顔のまま言うと、近藤君が固まる。

「そっ…そうですか…」

「それじゃ、私は教室に行きますから。さようなら。」

私が歩き出しても、近藤君は立ち止まったまま呆然としている…何よ、根性無し…


その後も、休み時間ごとに近藤君は私の周りに現れて、パーティパーティと騒いできた。
でも…ケーキの事には何も触れてこない…
確かに私、新ちゃんみたいにお料理上手じゃないけど…いつも美味しいって卵焼き食べてくれるじゃない…

何よ、もぅ…放課後になっちゃったじゃない…

「妙さーん!あんまり焦らしたら、攫ってしまいますよ?」

「なっ…焦らしてません!お家に色々用意してらっしゃるんでしょ?家族の方とパーティなさったら良いじゃない…美味しいケーキも用意してあるんでしょう?」

私が言うと、近藤君がしょんぼりと項垂れる。

「本当なら妙さんのケーキが食べたかったのですが…忙しそうだったんで、諦めました。ケーキだけ貰うよりも、妙さんと一緒の方が良いんで…」

大きな体を縮めて、上目遣いで私を見てくる。
…もう、可愛いって思っちゃったじゃない!

「私…アナタの家知らないもの。ちゃんと送り迎えしてくれるんでしょうね?」

「妙さん…?」

「クリスマスイブ、一緒にやってあげる、って言ってるんです!…ケーキも有るんだから…チョコケーキ…」

近藤君がいつもの大きさに戻る。
こんなに大きいのに、あんなに小さくなっちゃって…

「勿論です!じゃあ一緒に帰って…あっ!一緒に帰っても良いですか!?」

「…仕方ないじゃない…私の家、知らないでしょ…?」

「やっ…はい!知りません!恒道館なんて全くもって!」

…知ってるのね…
でも良いわ。気付かなかった事にしてあげる。

私が帰り支度をすると、私があげたマフラーを巻いて、近藤君が駆け寄ってくる。
新ちゃんの編んでくれたマフラーと比べると、凄く不格好…

「ねぇ、それ巻くの、止めてくれないかしら…?」

「何でですか?こんなに綺麗で暖かいのに。」

近藤君…真顔だわ…

「だって…皆が何て言ってるか知ってるでしょう?『白い何か』よ?そんなの着けてて恥ずかしくないの…?」

「恥ずかしいなんて事全然ありませんが?妙さんが俺にくれた物を、そんな風に言われるなんて心外ですな。」

握り拳を作って力説する。
…もぅ…何なの、この人…………
…………私………この人が良い…来年はもっと綺麗に編めるように頑張ろう…

私の家まで一緒に帰って、私服に着替えてからケーキを持って、近藤君の家まで行く。
近藤君の家は立派な道場で…そうか、だから家の事知ってたのね?

居間に通されて、テーブルの上を見ると、本当に豪華な料理が用意されていて…
ケーキも立派なケーキで…
こんなケーキが有るのに私ので…良いのかしら…

「お待たせしました!あ、コレはいらないんで片付けますね。」

黒のセーターにベージュの綿パンに着替えた近藤君が現れて、さっさとケーキを片付け始める。
…私服なんて、初めて見たわ…ちょっとカッコイイとか思っちゃったじゃない…

「こんなキレイなケーキ…勿体無いわ…私のケーキなんか出さない方が良いんじゃ…」

私が俯いて言っても、知らん顔でケーキを片付ける。

「何言ってんですか。妙さんのケーキに勝るものは有りませんよ。」

私が顔を上げると、綺麗な笑顔が迎えてくれる…

もぅ…勝てないな…

箱を開けてケーキを出すと、とびっきりの笑顔を見せてくれた。
どうしよう…クリスマスイブだから…恋人達のお祭りしてあげようかしら…?

でも…

私の気持ちなんてどこかに飛んで行ってしまうように、ケーキを食べた近藤君が、幸せな笑顔のまま倒れた…

私もアナタが好きよ、って言ってあげるのは、又今度にするしかなくなってしまったわ…
ちょっと残念なような、ちょっと安心したような…………
でも、ちゃんと言うから…その時は、ちゃんと聞いてね…?


続く