君にマフラー


季節はもうすっかり冬になりました。
生い茂っていた木々も葉っぱを落として、すっかり寒々しくなってしまいました…そんな木々を見ていると、より一層寒くなってくるんで、僕は今、マフラーを編んで…イヤ、編まされています。

初めは姉上と神楽ちゃんが、テレビでやっていた特集を見て、

『女の子はやっぱり冬には編み物よね―――――!』

とか言いつつやってたんだけど…当然のごとく途中で分からなくなって、投げ出した。
それも、ただ投げ出すだけならまだしも、

『折角買ってきた毛糸がもったいないわ。新ちゃん、編んでくれないかしら?勿論、神楽ちゃんの分も。』

とか言いやがった……

…まぁ…姉上に逆らえるハズも無く、編み物の本を買わされて、続き(というより初めから)僕が編んで完成させなければならなくなった。

やってみると案外面白くって、ザクザクやっちゃってるんだけどね…

神楽ちゃんにはピンクの毛糸、姉上にはオレンジの毛糸、僕の分は水色の毛糸でマフラーとミトンを編んだ。
2人とも喜んでくれて、すぐに使ってくれてる。
…えへへ…ちょっと嬉しい…
毛糸ってスゴイね!なんだかそれを着けただけで、暖かい気分になるよね!!
今は薄い黄色の毛糸でマフラーを編んでいる。

…だってさ、なんだかいつも寒そうなんだもん…

「新八ィ!昼飯喰いやしょうぜ―――。」

いつの間に買って来たのか、総悟君が両手一杯に持った購買のパンを置いて、僕の机に隣の机を付ける。

「総悟君、又パンなの?僕又お弁当作ってこようか?あ、当然材料代は貰うけど。」

「良いんですかぃ?ただでさえ3人分作ってるってぇのに…」

総悟君が恐る恐る聞いてくる。
…なんか…らしくないなぁ………

「良いよ別に。3人分も4人分もあんまり変わんないし。…それに、お弁当代貰ってた方が実はちょっと有難かったりするし…」

「そうですかぃ?じゃぁお願いしまさぁ。」

僕がニヤリ、と笑って言うと、総悟君がにっこり笑って言う。
…本当は別にお弁当代は良いんだけど…ジュラルミン一杯の万札は伊達じゃないし。
久し振りに見たかったんだ、この笑顔…

ほのぼのした雰囲気で食事を始めると、僕の目の前に真っ赤な何かが落ちてきた。

「えっ!?何!?何!?何が…!?」

「…マフラー…」

ガタガタと前の席の椅子を引きずって高杉先輩が現れて、僕の机にお弁当を置く。

「あ、先輩、しゃす!」

目の前に落ちてきた赤い物を見ると、それは真っ赤な毛糸だった。

「え―と、コレは…先輩もマフラーが欲しいって事ですか?」

さっさとお弁当を広げて食べ始めていた高杉先輩が、僕をじっと見てコクリ、と頷く。

「良いですよ。でも、今別のを編んでますからその後で良いですか?」

高杉先輩が、又コクリと頷く。

「…いい…おき………」

「わ――――っ!わ――――――っ!!わぁ―――――――っ!!!!」

僕がいきなり叫びだしたんで、総悟君と高杉先輩が、ぽかん、としている。
何かに気付いたのか、先輩が僕の近くに寄って

「…ひみつ…なのか…?」

と、聞いてきた。
僕がコクコクと頷くと、先輩は口にチャック、のポーズをとって、

「…ひみつ…言わない…」

と言ってくれた。

最近、不思議な事に総悟君が遠慮するから…
マフラー、出来上がっちゃってたら貰ってくれるだろうしねっ!

「ありがとうございます!」

僕がにっこりと笑って言うと、先輩も笑ってくれて、お弁当を食べ始める。
僕らを見ていた総悟君が、何か言おうとして止める。そして、大量のパンを黙って食べ始める。

…本当、どうしたんだろ…何か変だよな…

僕がお弁当を食べ終わって編み物を始めると、しばらくじ―っ、と見ていた総悟君が、ふいっと何処かへ行ってしまった。

「…おきた…おかしい…」

未だにもぐもぐとお弁当を食べている高杉先輩が、険しい顔で言う。この人、口数は少ないけどいろいろ見てるなぁ…

「僕にも分からないんですよね…でも、やっぱり変ですよね…」

僕らが首をかしげていると、楽しそうな神楽ちゃんが僕らの所にやってきてニヤリと笑う。

「アイツこの間ゴリに怒られてたネ!あんまりワガママしてると新八にキラワレるって。」

「えっ!?近藤君に?」

「ソウ。アネゴがゴリ怒ってたネ。新八がタイヘンそうだからなんとかしろって。」

…あ―――――…だからか…
総悟君、近藤君だけは尊敬してるって言ってたもんなぁ…

ちくしょう、変な遠慮しやがって…マフラー出来たら首絞めてやる。