卵焼き



今日は僕が万事屋の買い出し当番です。
珍しくタイムセールで欲しい物が全部買えたので、その戦利品をえっこらえっこら運んでいます。
はぁ…ちょっと買いすぎたかな…両手に2個ずつの荷物は、ちょっと辛いや…
イヤイヤ、これぐらい持てないとね!丁度いい鍛錬だよっ!!
僕がそんな事考えながら歩いていると、見廻り中の土方さんと沖田さんが向こうから歩いてきた。

…一応…挨拶しとかなきゃダメかなぁ…沖田さん1人ならお話しに行くのになぁ…土方さんってちょっと怖いよね…

僕が逡巡している間に2人に気付かれたらしくって、2人が僕に近づいて来る。

「こんにちわ、土方さん、沖田さん。」

「よう。」

「新八ィ、今日はスゲェ荷物ですねィ。」

土方さんが会釈してくれて、沖田さんが僕の荷物を見て驚いた顔をする。

「あはは…タイムセールの戦利品です。」

僕が笑うと、沖田さんが真面目な顔になる。

「土方さん、俺ァコレ運ぶの手伝ってきまさぁ。」

沖田さんが言うと、土方さんがニヤリと笑う。


「えっ!?イエ、いいですよっ!沖田さんお仕事中ですよね?」

「遠慮すんねィ。良いだろィ?土方さん。」

沖田さんが振り返ると、土方さんのニヤニヤ笑いが深くなる。

「市民を助けるのも警察の仕事だもんなぁ?行って来い、総悟。」

…ニヤニヤ笑いは気になるけど、実は良い人なのかなぁ…?土方さんって…

「土方コノヤロー…後で覚えてろィ…」

ニヤニヤ笑いの土方さんを睨みつつ、沖田さんがブツブツ言いながら、僕の荷物を2つ持ってくれる。

「行きやすぜ?新八ィ。」

「コレは貸しで良いからな?総悟。」

その場から立ち去ろうとする僕らに、土方さんが声を掛ける。
なんだろ…貸し…?って…?

まぁいいや。

えへへ…嬉しいな…沖田さんと2人になれた!
万事屋に帰る途中、沖田さんは僕に色々お話ししてくれる。
僕がお話を一生懸命聞いていると、うっすら微笑んでくれる…わ…綺麗…

「で?今日の晩飯は何ですかィ?おっ…野菜に…野菜…に…卵…?」

沖田さんが袋の中を覗いて顔をしかめる。

「沖田さん野菜嫌いなんですか?」

「おぅ。生臭くていけねぇや。」

「え〜?野菜は生臭くないですよ!あ、卵も嫌いなんですか?」

僕が聞くと、う〜ん、と考え込む。

「目ん玉焼きはわりと好きでさぁ。後はあんまり好きじゃないねィ。特に卵焼きは逃げらんねぇ分、イヤだねぇ。」

「えげつない呼び方しないで下さいよっ!目玉焼きですよね!?って…逃げる…?何でですか?卵焼き美味しいですよ?」

「…美味い…?」

そんなに卵嫌いなのかなぁ…?でも目玉焼きは好きって…
僕が不思議です、って顔で沖田さんを見ていると、沖田さんがげんなりした顔になる。

「新八ァ辛いの好きなんですかィ?ウチの姉上と一緒でさァ…じゃぁ今度激辛せんべいあげまさァ。」

は?激辛?

「ちょっと待って下さい沖田さん!卵焼きって普通辛くないですよ?まぁ…ウチの姉上のは黒いですけど…」

「え…?卵焼きってぇのは赤いモンなんじゃないんですかィ?」

「…赤…?」

沖田さんに良く話を聞くと、沖田さんの姉上は凄く辛い物が好きだそうで、卵に大量の一味を練り込んで焼くんだそうで…

「真選組で出されたのもソレだったんで、卵焼き、ってぇのはそう言うモンだと…」

「違いますよっ!何食べさせられてるんですか、アンタ!?来て下さい!僕が本当の卵焼き、ってのを食べさせてあげますっ!」

僕は片方の手に荷物をまとめて持って、ビックリした顔で立っている沖田さんの手を掴んで万事屋に急いだ。
走るように階段を上って、すぐに台所に行って、卵を3個割って牛乳を入れて、卵焼きを作る。
ちぇっ…出汁が無いから普通の卵焼きになっちゃうよ…

僕が卵をじゅう、と焼いていると、沖田さんが珍しそうに後ろから覗き込む。

「へぇ、上手いモンですねィ。」

ちょっ…背後に立つのは止めて欲しいんですけどっ!
なっ…何か新婚さんみたい…って何考えてんだ、僕ぅぅぅぅぅぅっ!!
ちょっと崩れちゃったけど、焼き上がった卵焼きを食べやすい大きさに切ってお皿に乗せる。
ソレを片手に乗せて、もう片方で沖田さんの背中を押して居間に移動する。
沖田さんをソファに座らせて、その前に卵焼きのお皿を置いてお箸を添える。

「はいどうぞ、コレが卵焼きです。」

卵焼きの乗ったお皿をじっと見て、ぱんっ、と手を合わせていただきます、と言う。
へぇ…意外と礼儀正しいんだ…沖田さんって…
ぱくりと一口食べた沖田さんの目が見開かれる。
…美味しくなかったのかなぁ…

「うめぇ!うめぇよ、新八ィ!何でィこれァ…」

「いえ、だから卵焼きですってば…あ、全部食べちゃって良いですよ?」

ぱくぱくと2個食べて、箸を銜えたまま下からじっと僕を見てるんでそう言うと、にぱっと笑った沖田さんが残りの卵焼きも全部たいらげる。
全部食べ終わると、又ぱんっ、と手を合わせてごちそうさまでした、と言ってくれる。

「どうですか?沖田さん。卵焼きってこういうものなんですよ?」

僕が言うと、沖田さんがにっこりと笑う。
うわっ…こんな顔でも笑うんだ…どうしよう…可愛い…

「スゲェ美味かったぜ、新八ィ!又新八の卵焼き、食わせてくれやすかィ…?」

「えぇ、良いですよ?まぁ、万事屋の台所事情で無理な時も有りますけど…」

僕が苦笑すると、沖田さんが胸を張る。

「卵持参で来まさぁ!」

「じゃぁ今度は出汁巻き卵作りますね?僕、そっちも大好きなんです!」

「出汁巻き…?そっちも美味そうでさぁ!約束でィ!」

「はい、約束ですっ!」

えへへ…嬉しい…沖田さんと約束しちゃった…!
約束したって事は、又こういう風に逢えるんだ…


それから数日間、万事屋の食卓には出汁巻き卵が並び続けました。
…2人を練習台にしちゃった…ごめんなさい!

そのおかげで、沖田さんには完璧な出汁巻き卵を出す事が出来ました!
今迄すっごい卵焼き食べてた人だもの、美味しいの食べさせてあげたいよね!
…それに…大好きな人には美味しいって言って欲しいから…僕だって頑張るんです!
…頑張るんです!!


END


弐萬打有難う御座います小説!!
本当に来て下さる皆様のおかげでここまで来れました!有難う御座います!!
内容は弐萬打とか関係ないですが…宜しければフリーでどうぞ。
何かで使う時は、連絡下さいませ。